3月23日、2歳のシャチが、カナダ、ブリティッシュコロンビアの入り江に、ひとり取り残されてしまいました
2歳の娘に、アザラシの捕まえ方を教えていた母親が、浅瀬に乗り上げてしまい
横倒しに打ち上げられた巨体を起こそうと、手を尽くした人たちの努力もむなしく
満ちてきた潮で、溺死してしまいました
(呼吸する穴は、頭のてっぺんにあるので、横倒しのままだと溺れてしまいます)
アザラシの狩りの仕方を母親から教わり始めた、といっても、2歳のシャチは、まだ子どもで、母親からお乳をもらうこともある、そうです
その子が、いきなり母親を失くして、ひとり取り残されたのは、ここ
母シャチが溺死した日から、突然母を失くしてひとり残された2歳のシャチを、内陸深くにある入り江から、仲間がいる外洋へ導こうとする努力が、大勢の人たちの手で始まりました
でも、この子、離れようとしないんです、亡くなった母親のそばを
さらに、溺死した母シャチは、妊娠していたことがわかり
母親だけではなく、生まれてくるはずだった弟か妹も失くしてしまった、2歳のシャチ
水中マイクで録音された鳴き声は、まるで「お母さん、どこにいるの?」と叫んでいるようで、胸が締めつけられました
このシャチは、Brave Little Hunter(勇敢な小さなハンター)と名づけられ
この地域のネイティブアメリカンの部族やシャチの専門家など、いろんな人たちが集まって、どうやってこの子を外洋に帰すか、が話し合われました
ネットで捕獲して、ボートで運びだす、空からヘリコプターで移動させる、必要な重機を運び込む、などなど
なにより私が感銘を受けたのは、そういう救出のアイディアを無理に押し進めようとしなかった、こと
かけがえのない母親を突然失って、混乱し、悲しみにくれる2歳のシャチ、Brave Little Hunter の気持ちを思い、彼女をせかせることなく、時間をかけて彼女の気持ちに寄り添うこと、をまず第一にしたことです
自分ではまだ狩りができないBrave Little Hunterのために、あざらしの肉をボートから投げ入れます
母親を失ってひと月あまり・・・
いったいいつになったら、この子は、この入り江から出ようと思うんだろう
でも、そんなふうに焦らずに
いつかここから外洋へ出て、仲間と再会する日が来てほしい・・・
そう願いながら、One Day At A Time(その日その日をあるがままに受け入れてゆく)それしかないんだろうな、きっと・・・
そう思った、その翌日、4月26日
彼女は、自分から入り江を後にしました
それも、狭くて浅い入り江の出口を、ラクに通過できる、潮が満ちた午前2時に・・・
彼女が自分の意志で、入り江から出る、その前日の夕方
救助プロジェクトにあたっていた人たちが、エサを投げ入れながら、彼女を入り江の出口近くへ誘導していました
その時は、彼女は出ようとしなかったけれど、ジャンプしたり、尾びれを水面にたたきつけたり、とてもアクティブでした
このひと月の間、たくさんの人に見守られ、食べ物をもらい、そのひとたちを信頼し、ゆっくりと時間をかけて悲しみを癒して、今、自分の意志で、この入り江を出てゆく、その時が巡ってきた・・・
外洋に出てゆく前に、Brave Little Hunterは、これまで彼女を導いてきたふたりの人にまるで別れを告げるかのように近づいて、その後、まるでロケットのように外洋に向けて泳ぎ去ったそうです
一日も早く、仲間の群れと合流できるよう祈りながら
これからも、また大勢の人が彼女のゆくえを見守ります
捕獲するための網も、移送するためのヘリコプターもボートも、重機も
なにひとつ、使われることはありませんでした
すごいよね、これって・・・